髙山辰雄(1912–2007)は、大分県に生まれ、戦後日本画壇を代表する巨匠として独自の地位を築いた画家である。幼少より自然に親しみ、静かな山や月の光、家族の姿といった普遍的な主題に心を寄せ、生涯を通じて「人間と自然の調和」というテーマを追い求めた。
戦後、ポール・ゴーギャンの芸術に触れて以降、彼の表現は大きく変わる。大胆に平面化された色面構成と、にじみや重ねによる奥行きの表現を融合させることで、写実にとどまらず心象を描く独自の様式を確立した。画面には、丘や湖畔、道や家並といった身近な風景が描かれながらも、それらは単なる再現ではなく、時間や記憶、精神の奥深さを宿す詩的な象徴へと昇華されている。
また、家族という題材に深い関心を寄せ、晩年には「聖家族」シリーズを通じて、親子の愛情や人間の存在に内在する温もりを描き続けた。母に抱かれる子の姿や、寄り添う家族の姿には、人生の根源的な優しさと強さがにじみ出ており、観る者の心に静かな感動を呼び起こす。
髙山辰雄の作品は、光と影、天と地、生と死といった対比の中に、永遠へとつながる普遍の感覚を響かせる。彼の筆致は一枚の絵を超えて、鑑賞者の心の深層に語りかけ、時代を越えて生き続ける力を持っている。