下田義寬(しもだ よしひろ、1940年富山県生まれ)は、日本画の伝統を礎としながらも、独自のまなざしで自然と心象を描き続けてきた画家です。東京藝術大学大学院を修了後、日本美術院展に初入選し、以降、大観賞や文部大臣賞、内閣総理大臣賞など数々の栄誉に輝きました。38歳にして日本美術院同人に推挙され、その才能と精神性は早くから高く評価されています。
下田は法隆寺金堂壁画の再現模写やヨーロッパ各地での壁画調査に携わり、東西の美術に通じる経験を培いました。こうした研鑽は、彼の作品に現れる「写実と理想の均衡」を支える基盤となっています。デッサンによる確かな造形力と、運筆による気韻生動を融合させた画風は、自然の気配や時間の移ろいを画面に定着させ、詩情豊かな世界を生み出します。
富士の荘厳さ、セーヌの詩情、そして鳥や大地に宿る生命の力。下田は対象を超えた精神性を描き出し、観る者に「自然と心が響き合う瞬間」を静かに示してきました。教育者としても長く後進を育て、日本美術院の理事として画壇に尽力するなど、その活動は芸術の継承と発展へと広がっています。