岩橋英遠(1903–1999) は、伝統と想像力のあわいを往き来した、日本画の巨匠である。北海道の北の大地に生まれ、広大な自然への畏敬を心に刻みながら育った。若き日に上京し、山内多門、のちに安田靫彦に師事し、叙情的な日本画の感性と、西洋的な開放性を融合させた独自の表現を築き上げた。
彼の絵画には、夢幻の風景が広がる。漂い、やがて消えてゆく雲、刻々と光を移ろわせる空、そして記憶と幻視が交錯する大地。自然は単なる描写の対象ではなく、生きた存在として画面に息づき、儚さと永遠とを同時に宿している。
東京藝術大学の教授として、また日本芸術院の会員として、同時代の美術と後進の育成に大きな足跡を残した。日本芸術院賞、文化功労者、文化勲章など、その業績は高く評価されている。
彼の作品の前に立つとき、私たちは大地と空の静かな威容に触れ、刹那のなかに潜む永遠の詩情を垣間見るのである。